ドイツの劇場にはどんな職業の人が働いているの? ~運営陣・後編~

バレエ

この記事は前回の続きの記事になりますが、単体でも読めます。

前編で紹介した職業
  • 総監督
  • 財務責任者
  • 芸術労務管理責任者
  • チーフ ドラマトゥルク

上記の3つを知りたい方は、こちらから前編に飛んでくださいね。

今回の後半の記事では、劇場の運営陣の中でも専門的な知識をもった方々を紹介していこうと思います。ドイツ語での役職名をカタカナでも書いていますので、ぜひ声に出して楽しんでみてください!

もちろんドイツに留まらず、これから劇場や劇団に所属する方の参考になれば幸いです。皆さんが興味を抱かれている劇場というひとつの『会社』が、はたしてどういった部員・部署で構成されているのか? 劇場勤務もこの夏で14年になります私がお伝えします。

それではいってみましょう!

Generalmusikdirektor = 音楽総監督(ゲネラール ムジーク ディレクトーア)

劇場の『魔法使い』。

こちらは最高位指揮者です。単語の頭文字を省略して、通称『GMD(ゲーエムデー)』と呼ばれます。

えーっと…舞台の時にふんぞり反って指揮棒を振っている人ですか?

はい、合ってます! よく知らない人からすればそれ位の認識だと思います。でももちろんそれだけではありません。

社内では最も華々しい職業という印象ですが、普段の仕事内容を把握している人は、そう多くはいらっしゃらないのではないでしょうか?

指揮者は他の音楽家との練習が始まる前に、自分の練習(楽譜の読み込み等)を終わらせておく必要があります。その為いつでも先を見越した行動が必要とされます。上演するプログラムの提案や、オーケストラの編成も行います。また、オペラの立ち稽古の時はコレペティトーア(伴奏ピアニスト)を指揮して練習につきっきりですし、歌手とオケの雇用も任されています。他の指揮者に仕事を割り振るのもこの方です。

そしてオケの合わせ練習! これは時間との闘いです。限られた時間内に、的確な指示を淀みなく与え続けなければなりません。何故なら練習時間が1秒でも過ぎれば、オケは話の途中だろうが席を立って帰ってしまうからです。日本人の感覚からしたらぎょっとなるとは思いますが、そういうものなのです。最後まで手数を諦めないその様は、ワニワニパニ〇クを想像すると分かりやすいかもしれません。逆に分かりにくくなっていたらごめんなさい、忘れてください。

ただし音楽性だけでなく人を惹きつける魅力を兼ね備えていたり、ユーモアを交えて話す事で楽団員たちの集中力をうまくコントロールしたりできる方なら彼らも1分くらいは待ってくれるかもしれませんね。しかしそこまで頭が回る指揮者は往々にして、時間内にきっちりと終わらせる事ができるものです。

そうして迎える本番で、指揮者はやっと本領を発揮できます。舞台に音楽の魔法をかける時間です! 指先の指示通りに音楽が鳴り、歌手が歌う。見た目にもすでに魔法以外の何物でもありませんがこの魔力、実際に宿るのです…!

私は踊り手なので、音楽のことなど一切分かりません。なのに、同じオケでも指揮者の力量によってクオリティが全く違ってしまうのを目の当たりにしています。そして音楽に集中力があると、鳥肌が立つほど良いパフォーマンスができます。音楽家のみに留まらず舞台の上の演者まで操るのですから、すごいと思いませんか?

尊敬が高じて長々と語ってしまいましたが、要するに舞台の出来いかんと音楽に関する一切の責任を、この方が負っているのです。ですのでカーテンコールでも、指揮者が総轄として最後に礼をするのが通例となっています。演者の皆さんは「おいしいとこ取りやん…」と不満気な顔をやめて、これからは見えない仕事にも感謝してこの方に拍手をしてあげてくださいね。

派手さとは裏腹に癖の強い音楽家同士のいざこざのとばっちりを食らったりもする、気苦労の絶えない職業です。もうほんとのところ、一振りウン千万円なんて世界中でも限られた人だけで、劇場専属の指揮者はその責任と仕事量に比べたらボランティアみたいな賃金で従事してくださっております。その情熱に敬伏致します。

Operndirektor = オペラ監督(オーパーン ディレクトーア)

直訳ではオペラ部門の部長さんとなりますが、実際には『Musiktheater(ムジーク テアーター)』、音楽劇部門を統率される方のことです。

音楽劇部門は指揮者やソロ契約の歌手、コレペティトゥーア(伴奏ピアニスト)、演出助手、ゾフレーゼ(プロンプター、カンペ係)といった、オペラに携わる様々な職種の方々を内包しています。

その人材を、事務(KBB、次回の記事で後述)や音楽総監督と連携してスケジュール管理、人事配置を行います。上演プログラムの考案も。

中には演出を手掛けることのできる方もいらっしゃいますが、必須条件ではありません。

また、小さい規模の(人数が少ない)劇場などでは、音楽総監督がこの役割を兼任することも。

Chordirektor = 合唱監督(コーア ディレクトーア)

劇場の専属合唱団は通常、「オペラ合唱」と呼ばれますが、そちらの部長さんです。

ソプラノ、アルト、テノール、バスの4つの声域に分かれた彼ら彼女らのハーモニーがしっかり重なるよう指導します。

歌い手もプロですので練習では簡単でしょうが、舞台上では立ち位置が前後にバラバラだったりして揃えるのは一苦労です。ましてや舞台の奥にいてオーケストラから物理的に遠いと、客席には歌声が音楽より遅れて届くことになってしまいます。そのあたりの微調整までできる方は素晴らしいですね。(なお、腕の立つ指揮者はこの距離も計算して指示します)

事務(KBB)と連携してスケジュール管理も行います。週ごとや翌月の練習計画表を早めに発表しないと、合唱からはすぐ不満が出ます。笑

劇場内では最も年齢層が厚い部門ではないでしょうか。それゆえにプライベートや家族との時間を大切にしているでしょうし、基本的に合唱団は人数も多くオケと同様に終身雇用な分、発言権も強いです。

そのためか、経験の浅い監督だとなめられてしまいがちです。誠実に仕事をして尊敬を集められなければ、監督が伴奏をやめても彼らは気付かずに歌い続けている、なんて事もあり得るでしょうね。…おや、今笑えなかったあなたはもしかして?

Ballettdirektor = バレエ監督(バレット ディレクトーア)

バレエ部門の部長さんです。

劇場の中でも特に国際色豊かで、そして団員の入れ替わりが激しい部門がバレエです。

音楽家とは違い、若くは18歳から働き始めるバレエダンサー。ドイツ語や就業規則がまだよく分かってないのをいい事に、彼らをブラックに働かせるあくどい監督もまだまだ存在します。入りたての人は先輩に話を伺うなどして、気を付けましょう。何かひどいことを言われた・されたときには日付と時間入りでメモを取っておいてください。たったそれだけのことが、後からあなたの強い盾になります。

また、経費の面で言えば、この方が振付をできるか否かがとても重要になってきます。

大きな劇場ではそれだけ多くのダンサーを内包するため、クラシックな演目も古典的な振付のままで事足ります。しかし規模が中小ですと、振付をアレンジするか、あるいは一から作るかしなければ上演は不可能に近いと思ってください。

バレエの振付自体が特殊すぎて、バレエの経験者でなければ務まりませんしね…

更に劇場側がスケジュールをうまく調整すれば、振付家を兼ねたバレエ監督はオペラやオペレッタなどの振付もしてくれます。ですので、この兼任ができる方はすごく重宝されるのです。

もちろんダンサーにとってはいい面ばかりではありません。

外部から振付家が来ないという事は、多様なスタイルの振付を学べる機会の損失を意味します。ダンサーの成長のため、そして上演プログラムのバリエーションを充実させる意味でもバレエ部門に割り当てられる予算の貯蓄は、ゲストコレオグラファーとの契約に宛がわれると言っても差し支えないでしょう。

Schauspieldirektor = 演劇監督(シャウシュピール ディレクトーア)

演劇部門の部長さんで、俳優たちのまとめ役になります。

大学などで演出の勉強をなさった方、またご自身に俳優の経験があり、仕事内容を熟知しているとなれば兼任・転身する方もいらっしゃいます。

必須ではありませんが、演技指導や演出を手掛けられる方が多い印象です。

その場合は対人だけではなく、舞台技術の知識にも長けています。劇場によって備え付けの舞台装置は違いますが、せり上がったり回転したりする床や、音響・照明を駆使して舞台をドラマティックに彩ります。その点では後述の、技術監督との連携が深いと言えます。

感情の機敏、それに基づいた言動に聡い方であるのは間違いありません。やっぱりこういう方は人生経験も豊富なのかしら!? と私は考えたりします。笑

Leiter Puppentheater = 人形劇監督(ライター プッペンテアータ―)

人形劇部門の部長さんです。

人形劇? 劇場に? ホワイジャーマニーピーポー?

私には見えますよ…今まででいちばん想像がつかないでいる、あなた達のきょとんとした表情が…

ではヒントを。ほとんどの皆さんは幼い頃、NHK教育テ〇ビを見て育ったのではないでしょうか?

ドイツでは興味深いことに、劇場を訪ねるのが教育の一環となっています。早くはなんと幼稚園児から。小中学生ほどにもなると演劇を観ますが、人形劇はまさに子どもたちの劇場デビューにうってつけ!

糸のついた操り人形。差し込まれた手で、くるくると愛嬌たっぷりに動くパペット。規模が大きくなると、演者も一部分になってパーツを動かすものもあります。獅子舞みたいな被り物なども!

人形の表情は当然変わらないのですが、動きに声をあてて感情をのせることで不思議と表情豊かに見えます。一人で何役もこなしたりするので、声優さんのような要素もあるのです。

それらに魅了されるうち、子どもたちは自然と劇場でのマナーを身に着けます。静かに観ること、でも笑ったりなどの反応をしてもよいこと、拍手のタイミングなど。

もちろんクオリティは大人が唸るほど。朝早くからの上演や、ダブル(1日2回)公演などが最も多い方たちです。

Techniche Leitung = 技術監督(テヒニッシェ ライトゥング)

舞台技術部門の部長さんです。

舞台技術とは舞台のセットや、仕掛け(ギミック)を意味します。幕の開閉や上げ下げに始まり、照明、音響、床の仕掛け、足場の組み立て、舞台転換、ライブコンサートでよくある巨大クラッカーの演出などなど…数え上げればきりがありませんが、各分野のエキスパート達を束ねるのがこの方です。

技術者と演者の両方が安全に上演できるよう、常に気を配っておられます。

後は人員配置や、単純に装置の仕入れなどを担当。ハイテク化が急激に進むこの時代で、常に知識のアップデートが必要とされますね。

まとめ

いかがでしたか? 様々な専門家がそれぞれの知恵を持ち寄ってひとつの作品を作り上げる様子を、なんとなくでも想像してもらえたならとっても嬉しいです!

もしこの記事が役立つかも、という方にお心当たりがあればシェアをよろしくお願いいたします。むしろ芸術に携わらない方にこそ劇場のことを広めてゆきたいので、どんどんシェアしてくださると非常に助かります!

不明瞭な点などあればお気軽にお尋ねくださいね。都度改良してゆきます。

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