ドイツの劇場にはどんな職業の人が働いているの? ~オペラ編~

バレエ&劇場

今回の記事からは表舞台に立つアーティストと、普段は舞台でスポットライトを浴びないものの、彼ら彼女らをサポートする影の立役者をしっかり説明していきたいと思います。

部署ごとのご説明になりますが、歌劇に所属する方々の職種は特に豊富です。詳細を妥協しなかった結果長くなりましたので、当記事では歌劇のみ扱うことに致しますね。

これまで劇場経営の管理をしてくださる事務や、首脳たる運営陣を前編後編に渡って紹介していますので、先にそちらを読んでみたいという方はリンクからどうぞ!

例によって例のごとくドイツ語の読みをカタカナで書いていますので、読み上げて楽しんでくださいね。

それでは早速いってみま、しょうっ!

Musiktheater = オペラ(ムジーク テアーター)

音楽総監督(GMD)、またはオペラ監督率いるこの部門は目次を見ていただいてもわかる通り、多様な職種で構成されています。

Kapellmeister = 常任指揮者(カペル マイスター)

音楽総監督は最も規模の大きなシンフォニーコンサートやオペラを振りますが、こちらのカペルマイスターはその補佐でもあり、それに加えて自分が受け持つ作品もあります。

ポストは第1、第2カペルマイスターとあります。第1カペルマイスターは音楽総監督に次ぐ席ですので、多くの場合、音楽総監督の代理を果たします。

ドイツの劇場では日本と違い、一つの作品につきシーズンを通して10回以上上演されるのが一般的。複数作品の練習時間を確保するためにも、一作品に対し指揮者数人であたる必要がでてきます。

果たしてその仕事を任せてくれる上司に恵まれるかどうかは、運と実力次第ではありますが、大きな作品を振るチャンスもあるわけですね。

ちなみに『指揮者』という職業の意味合いのみなら、『Dirigent(ディリゲント)』と表されます。

規模の小さな劇場では第1が後述の音楽コーチングを兼任したり、第2が合唱監督や後述のコレペティトーアを兼任したりといった例も。マルチに活躍できる存在のおかげでドイツの劇場の音楽層がこんなにも厚いのだと感嘆せざるをえません。

Korrepetitor = 音楽コーチ(コレペティトーア)

コレペティトーアは、ピアノで歌の伴奏をし、歌手に音楽稽古をつける方です。ピアノを上手に弾くことと歌手に稽古をつけることでは全く別の技術を要しますので、ドイツの音楽大学にはそれ専門の学科が存在します。

圧倒的な独断と偏見で言いますと、伴奏や歌手との仕事が大大大好きでそれをおかずにごはんが食べられるぐらいの方にしかおすすめはできない職業。仕事量が圧倒的に多く、しかも濃い。雇用形態がソリスト契約なおかげで保障されている休日が少ないのも理由のひとつですが、その仕事内容を箇条書きにしますと、よく分からない方でもそのヤバさは伝わることと思います。

  • ソロのオペラ歌手との個人練習(伴奏で譜読み、暗譜、発音矯正のお手伝い
  • 上記をふまえた上での多言語の理解(ドイツ語、イタリア語、フランス語などオペラによく使われる言語はほぼ必須)
  • 上記をふまえた上で更に舞台発音の理解(一般的な発音とはまた異なる)
  • 練習時の相手役や代役としての弾き歌い(歌自体は下手でも構わない)
  • 演出の立ち稽古(指揮者に合わせて伴奏
  • 初めて衣装・照明つきで行われる通し稽古(まるまる一作品をピアノのみで伴奏
  • 裏方だけでなくオケに乗る場合も(ピアノ・キーボード・チェンバロ・チェレスタ演奏
  • きっちり仕事をしようと思ったら時間が足りない(勤務時間外でも自主練習

作品がお披露目される週、舞台とオケの合わせが始まると客席で音響バランスをチェックしたり、歌手への改善点も控えます。

初演直前の稽古『Generalprobe=ゲネプロ(ゲネラール プローベ)』が終われば、ようやくお役御免。初演が舞台でつつがなく上演され、素晴らしいアリアに拍手が贈られる頃、コレペティトーアはこそこそと空きスタジオで次の作品の練習に取り掛かっているらしいですよ。初演を聴きたいのは山々ですが、そうでもしないと仕事が追い付かないときもあるのでしょうね。まさに縁の下の力持ち…!笑

演劇部門へも同様に伴奏に赴いたり、バレエには専門の『Ballettrepetitor(バレット レペティトーア)』がおり、レッスンやリハーサルの伴奏・音出しなどを担当してくださいます。こちらの小ネタはバレエ部門にて。

多くの劇場で指揮も契約内容に入っており、『Korrepetitor mit Dirigierverpflichtung(コレペティトーア ミット ディリギアー フェアプフリヒトゥング』と表記されます。立ち稽古や、本番中舞台裏での楽器隊の指揮なども引き受けなければなりません。

カペルマイスターで記述したようにドイツでは本番回数が多いため、コレペティトーアが指揮者として出動することも多々あります。コレペティトーアとしての仕事へ更に指揮者の仕事が加わるのですから、時間はいくらあっても足りなさそうですね。

名指揮者として活動する方の中には、この職からキャリアをスタートさせた方もいらっしゃるのが大変興味深い点です。フルトヴェングラーやカラヤン、そして今もドレスデン州立歌劇場でオペラを振るクリスティアン・ティーレマンなど。コンクールで入賞するだけが指揮への足掛かりではないのですね。他の指揮者や音楽監督の仕事を間近で見て吸収でき、活きた下積み経験ができる点で全く理にかなっています。

Studienleiter = 音楽コーチ主任(シュトゥーディエン ライター)

『コレペティトーア』の主任さんです。ご自身もコレペティトーアとして働きながら、KBBと連携して毎日、翌日分の歌手とコレペティトーアの練習計画を立てていらっしゃいます。

劇場では歌劇は一般的に、初演の6週間前から演出の立ち稽古に入ります。ということはそれ以前に音楽稽古を済ませておく必要がありますので、作品やスケジュールによっては初演の半年やそれ以上前から歌手に稽古をつけ始めることも。

シーズンを通して専属の歌手たちがいつ・どれだけの本番数をこなすのか。また、どの役を歌い、それによってかかる負担なども考慮した上で計画を立てなければなりません。全体を俯瞰し、緻密に計画できる方がこの職業に向いています。

劇場での歌手とオペラの知識・経験をある程度積んだコレペティトーアが、この重要な任務を任せられるのは必然と言えるでしょう。

コレペティトーア同様、劇場によっては指揮も契約内容に入っています。

Souffleur = プロンプター(ゾフレーア)

平たく言いますと、『カンペ係』です。劇場においては、舞台袖や舞台中央に埋め込まれたプロンプターボックスから小声で歌詞を読み上げる方のことを指します。フランス語の「ささやき」が語源になっています。

舞台上に立つ演者は、お芝居や楽譜を全て記憶して舞台に立っています。幾度も反復練習をすることにより、振りや歌詞を体に定着させるのです。

しかしまれに、歌詞が飛んでしまうことがあります。ブラックアウトと呼ばれるものです。本当にふとした拍子、たとえば相手の立ち位置や照明のきっかけが違ったり、自分がなにかミスをしたときなど…。集中力がふっと途切れた瞬間にそれは訪れます。

そんなピンチでもゾフレーア(女性はゾフレーゼ)はいつでも音楽の入りより一拍早く歌詞を読み上げてくれていますので、すぐに記憶が呼び覚まされることでしょう。立ち稽古の時から歌手と一緒に練習しているため、タイミングもばっちりに仕上がります。

歌手の病欠で外部からピンチヒッターを呼ぶときにも、ゾフレーアは大活躍します。同じ演目を現行で上演していても、劇場によってそれぞれカットする場所やセリフが違うためです。

楽譜が読めること、そして多言語を流暢に読み上げられるスキルは必須です。特に現代音楽のようなカウントのしづらい作品では、ゾフレーアが呼吸を合わせてくれると歌手は舞台上でも安心できます。

歌手にはゾフレーア、音楽家には楽譜があるのにダンサーだけはガイド的なものは全くありませんので、少し羨ましくもあります…。笑

滅多にはありませんが、諸事情により声が出なくなった歌手に代わってセリフ部分(ディアローグ)を読み上げなければならないことも。

実体験になりますがミュージカルのメインを歌う女性の声が出なくなったときに、演技をオリジナルの方が。歌を合唱から急遽キャスティングして楽譜付きで歌い、セリフをゾフレーゼの方が読み上げるという本番がありました。

裏方から急に表舞台に引きずり出されるなんて、スリリングではありますよね…。笑

Opernsänger = オペラ歌手(オーパーン ゼンガー)

声楽家は身体を楽器にしている方々です。

歌うという行為は実は、声帯やおなかの筋肉だけを使っているのではありません。姿勢や骨格、歯並びといった身体の細部からさえも影響を受けています。また筋肉にも変な癖はつきやすいため、そうした微調整を、信頼を置くボイストレーナーに定期的に正してもらう方もいらっしゃいます。

Stimmlage=音域(シュティム ラーゲ)には高い順から、

  • 女声:Sopran=ソプラノ(ゾプラーン)
  • 女声:Mezzosopran=メゾソプラノ(メッツォ ゾプラーン)
  • 女声:Alt=アルト(アルト)
  • 男声:Countertenor=カウンターテノール(カウンター テノーア)
  • 男声:Tenor=テノール(テノーア)
  • 男声:Bariton=バリトン(バーリトン)
  • 男声:Bass=バス(バス)

と分類されます。カウンターテノールというのは、ファルセットと呼ばれる裏声の手法を用いて女声に相当する音域で歌う変声済みの男性歌手のことです。男声とあなどるなかれ、めっちゃ高いし迫力たっぷりです!

Stimmfach=声質(シュティム ファッハ)というのは声の性格みたいなもので、こちらはほんの一例になりますが、

  • dramatisch=ドラマティックな(ドラマーティッシュ)
  • koloratur=転がるように軽快な(コロラトゥーア)
  • helden=英雄的な(ヘルデン)
  • buffo=喜劇的な(ブッフォ)

などがあります。この音域と声質を組み合わせることで声楽家の特長がわかりやすくなり、たとえば劇場側が特定の役柄に対する公募をかけるとき、オーディションサイトなどでは「Tenorbuffo(喜劇的な声のテノール歌手)を探しています」と表記されるのです。

オーディションといえばゲスト歌手として劇場に呼ばれる場合、音楽稽古の後すぐに立ち稽古に移れるよう、通常最初の練習で暗譜までは済ませておかないとならないそうです。専属の歌手はコレペティトーアに稽古をつけてもらえるので、そういった違いもあります。

ちなみに専属契約の数は、小・中規模の劇場で10前後。大きな劇場ですと20以上あるところも。

専属歌手としてどちらに所属するのがいいか、というのは一概には言えません。各々の価値観によって違うのではないかと私は思います。

たとえば仕事量ひとつ取ってみても、小・中規模は圧倒的に多いと聞きます。専属の数が少ない分、少人数でやりくりしようと思ったら歌手その人の本来の声質ではないものにも配役されてしまうのです。オペラ歌手なのにミュージカルを歌わされたりするのも宿命です。休む暇がなく、声や体調に細心の注意を払い続けねばなりませんし、無理がたたって喉を潰してしまう方もいます。しかし経験を積むという意味ではいいのかもしれません。

もし絶対に自分の声質以外を歌いたくないという確固たる意志をお持ちの方は、契約を交わす時点で注意深く交渉した方が賢明かもしれませんね。

大きな劇場では(もちろん個人差・劇場差はあるでしょうけれど)仕事量が比較的少ない分、ひとつの作品ごとに集中して取り組めるでしょう。でも有名なゲストを呼べる予算がありますので、専属だからといって作品に参加できる保障はどこにもありません。しかし舞台に立てないのは辛くとも、経験豊富な歌手を間近で見、聴きできる大きな学びの機会であることは確かです。

何事にもいい面、悪い面がありますが、どんな仕事がしたいかはその人次第ですよね。自分と向き合い、自分に適した環境・目指す存在とは一体どんなものか、そしてそこに辿り着くためにどういうプロセスを踏めばよいのか。声楽家がこの厳しい世界を渡り歩くには技術だけでなく、自己プロデュ―ス能力も必要なのではないでしょうか。

ドイツでは『Agentur=エージェント(アーゲントゥーア)』と契約を交わすことで、彼ら彼女らがまだ公にはされていない、依頼人の声質に合った仕事を見つけてくれるシステムなども存在します。噂ではオペラ歌手のオーディションのほとんどがそのコネクションで賄われているらしいとか…。まだ知らなかった方は、ぜひ調べてみてはいかがでしょう?

Opernchor = オペラ合唱団(オーパーン コーア)

私は声楽家の友人などから、日本の合唱は稽古時も規律正しいと聞いています。私の今までの経験ではドイツでは、それは絶対にありえません。笑(再度確認しますが、独断と偏見ですよ!)

能動的で、個性的で、わがままです。本番中にも袖でスマホを弄ったりするし、稽古中はうるさいし、全然話を聞いてなかったりします。統率者によっても態度がころっと変わるのは、表裏があるというより逆に素直すぎるんだと思います。

彼ら彼女らはグループ契約だから、たった一言でもひとりで喋るだけでエキストラマネー(賞与)が発生するのですよ。羨ましすぎる! 仕事では恵まれているように見えるのに、口を開けば不満だらけ。権利ばっかり主張して、上司たちは頭を悩ませすぎたのか髪の毛も薄くなってしまって。(ひどい)

ひと昔前の感覚で働いているベテランの方など「もうそんなに出番ないから~」とかなんとか言いつつ、舞台が終わらないうちから食堂でビールを飲んだりしています。ありえませんよね! 本当に、信じられない!

それでも私、合唱の方々が大好きなんです…。

陽気で、優しくて、無駄にドラマティックで、人間味溢れる方々ばかり。演出の稽古中は自発的に、クリエイティブなアイデアを次々と放り込んでくれます。合唱監督の紹介をしたときにも触れましたが、合唱は年齢層が厚い部門です。『劇場』というものに慣れている方々ばかりですので、舞台上での自分の魅せ方を熟知しています。他分野に所属しているとしても、私は彼ら彼女らから多くを学びました。

何より、皆さん歌が大好き。それがひしひしと伝わってきます。

ですので、もっと目立つ合唱になりたい! 演出に参加したい! と思われる方は、海外の劇場の合唱団を目指すのもよいかもしれません。ドイツの合唱も、最近ではかなり多国籍な印象です。もっとも、周りは先ほど述べた通り奔放な方々ですので、それでも大丈夫なのであれば、の話です。こちらの合唱に所属する日本人の方は、同僚に呆れかえっている人がほとんどですからね。笑

そういえば私がこのブログを立ち上げたきっかけのひとつに、今の職場に移ってから以前の職場を訪ねたときのエピソードがあります。

オペラの舞台を観に行ったのですが、休憩中に偶然、合唱の女性に再会しました。挨拶をすると彼女は「やっと笑顔で挨拶をしてくれる人が現れたわ!」と強く私を抱きしめたのです。怪訝に思いどういうことか尋ねると、私が職場を後にして何年かするうちに新しいダンサーが増え、目が合っても挨拶すらしない人ばかりになってしまったそうです。その劇場では、バレエはオペレッタなどにも参加して、交流がないわけではないにも関わらずです。

まだ劇場に入ったばかり、もしくはこれから入る予定の若い人たちにどうしても知ってほしい。劇場にいる人は全員、あなたの同僚です。どんな分野であろうと、私たちは各々の技術を持ち寄って集まっているだけに過ぎません。そしてその気になればどんな方からも学べますし、どんな仕事だって楽しくできます。一刻も早く抜け出したい劣悪な環境であっても、必ず自分の未来に活かせます。

とは言っても本番中にビールはだめよね。いくらひと昔前はそういうところがもっと適当だったとはいえ、見習わないでください。笑

まとめ

いかがでしたか? ご紹介した中には、聞き慣れない職業もあったかもしれません。

ひとつの作品ができあがるまでに、どんな方々が携わっているのか。皆さんに少しずつ知っていただけたら嬉しいです!

合唱の仕事内容は合唱監督のくだりでほとんど説明してしまったので、エピソードだけになってしまいました。それでも親近感を覚えていただけたのなら幸いです。

さすがにもうちょっと、ちゃんとしている合唱団もいらっしゃるとは思うんですけど。笑 うちは真面目に仕事していますよというクレームを、ぜひぜひお聞かせくださいね!

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