ドイツの劇場にはどんな職業の人が働いているの? ~オーケストラ編~

バレエ&劇場

今回はドイツの、劇場付きオーケストラについての記事です。

これまでに劇場経営の管理をしてくださる事務や、首脳たる運営陣を前編後編に渡って紹介しています。現時点で最も多く読んでいただいたのは、オペラ部門についての記事です! 先にそちらを読んでみたいという方はリンクからどうぞ!

例によって例のごとくカッコ内にドイツ語の読みをカタカナで書いていますので、読み上げてドイツ気分を楽しんでみてくださいね。

それでは参ります!

Orchester = オーケストラ(オルケスター)

オーケストラの格付けランク

ドイツにはひとつの街にひとつの劇場、と言われるほど数多くの劇場があります。上演プログラムのレパートリーや常勤の人材を持ち、国や地方自治体(州や市)から公的支援を受ける公立の劇場だけでもその数なんと、約140!(参考:2015/16年度、Deutscher Bühnenverein調べ)

その劇場も全てではないにしろ、主要とされるものにはそれぞれランク付けがされています。そしてその基準となっているのが実は、オーケストラなのです。

専属楽団員の人数によってAからDまで振り分けられ、ランクは高い順にA→B→C→Dとなっています。

クオリティだけでなく規模や収入も考慮された曖昧なランクですが、劇場のレベルを判断するおおよその目安としては使えますし、中で働くプライドの高い音楽家などはそういった肩書きをバチバチに意識したりしているとも聞きます。笑

オーケストラの肩書きといえば『Staatskapelle(シュターツ カペレ)』や『Staatsorchester(シュターツ オルケスタ―)』を思い浮かべる方も少なくないのではないでしょうか。

ドイツは16の州からなる連邦国家ですが、州の代表的なオーケストラには上記のような称号が与えられます。15~18世紀頃に見られた『Hofkapelle(ホーフ カペレ)』という、ヨーロッパの宮廷に仕える宮廷楽団に端を発するそうです。

オーケストラの投票

オーケストラは楽団員として入団してすぐは『Probezeit=お試し期間(プローベツァイト)』ですが、正団員に登用されると終身雇用になるとあって、劇場の中でも発言力がある部門です。

それを証するように、上記のお試し期間を経た団員がこの先も残れるかどうか。その重大な合否に正団員たちの投票が関わってくるのです。

ドイツの劇場の楽団員は、ポジションを決める場面では必ず投票をしています。新しい楽団員のオーデションはもちろん、首席奏者ともなれば他の楽器演奏者でも赴いて合否を投票。音楽総監督(GMD)やカペルマイスターのオーディション後にも指揮やリハーサルがよかったか否かを判別します。

楽器内や、指揮者のポジションを昇進させるかどうかも同様に投票します。

その投票結果がいつも決定に直結するわけではありませんが、オーケストラの総意として丁重に扱われます。

ちなみに投票のことをドイツ語で『stimmen(シュティメン)』と言うのですが、その言葉の異義に『(楽器やオーケストラの)チューニング』があります。

「オーケストラ=stimmen」という図式が浮かんで笑えてくるのは、筆者だけでしょうか?笑

オーケストラピットについて

写真の様に、オーケストラピットをネットで覆うことも。舞台前方から客席側に伸びる花道途中にある窪みはロージェ。

オケピと略されるオーケストラピットとは、劇場で楽団員が演奏している場所のこと。ピットの持つ『凹み』や『穴』という意味の通り、バレエやオペラの伴奏を担当するときのオーケストラは、観客からは見えない下方のくぼみに位置しています。

作品の編成によっては全員分のスペースが足りないことも。そんなケースでは、入りきらない打楽器やピアノを左右の『ロージェ』に押し込んで対応します。笑

ロージェは直前の写真を参照していただくと分かりやすいですが、舞台前方から客席に伸びる花道途中に見える窪みのことで、舞台袖へと繋がっています。緞帳が閉まっても指揮者が見える位置ですので、その点問題なく演奏できるというわけですね。

ちなみになぜ客席から指揮者の頭部だけちらちら見え隠れしているのかといいますと、コンサートホールと違ってほとんど床の高低差がないオケピ内で、奥の楽団員からもよく見えるようにするため。そして舞台上への指示出しをも行うため、足元をわざと高くしてあるのです。

オケピはさらに、ほとんどの劇場では可動式で、床を上げたり下げたりできるようになっているんですよ。

バレエでも、生演奏ではなく録音を使うときはオケピを舞台の高さまで上げてフロアの一部にしてしまいます。

また、シーズン初めのオープニングガラなど、ショー形式な催しが行われるときも上記と同様にオケピを上げることも。その場合オケが舞台後方で演奏し、アーティストが客席から間近でナンバーを披露するという配置を取ります。

ドイツ語でオケピは『Orchestergraben(オルケスタ― グラーベン)』や『Orchesterwanne(オルケスタ― ヴァンネ)』と呼びます。前者は堀、後者は槽という意味の言葉と組み合わされていて、個人的には後者が気に入っております。

というのも一度演奏中のオケピの後方に座らせていただく機会に恵まれた際、音が鳴りだした途端ピット内が音で満たされるのを肌で感じたのです。空っぽの水槽に水を張るかのように空気が音へと置き換えられていき、まるで音に溺れるかのごとき感覚に『音槽』というようなオケピを表す新しい言葉があってもいいんじゃないかと思うぐらい感動したのが理由です…。

座っていたのがホルンの近くだったので、めちゃめちゃうるさかったのもあるでしょう! 楽団員が自分の出す音が聴こえないと常々ぼやいていらっしゃるのも、耳栓をしながら演奏する方がいるのもなるほど、よく分かりました。笑

フィクションのオーケストラと実際のオーケストラ

筆者は2003年、三谷幸喜監督の初ミュージカル作品〈オケピ!〉を観劇しました。そのあまりの面白さに、作品のキャッチコピーである歌詞を含む代表曲を、17年経った今でも覚えています。


「それがオケピ! 人生で起こることは、すべてここでも起こる」

ミュージカル〈オケピ!〉

オーケストラの楽団員(日本で言う『オケマン』)は、音楽をしているときはひたすらかっこいいですよね。黒服にきりっと身を包み、真剣な眼差しで譜面や指揮者を追い、至上のハーモニーを奏でる…。

しかし舞台裏では演奏時の協調性はどこへ消失したのかと疑いたくなるくらい、てんやわんやしています。誰が言ったか、幼稚園児と似たり寄ったりのレベルです。

好き嫌い、派閥、自尊心、えこひいき、泥沼の愛憎劇、勘違い、病み、罵りあい、怠慢、とばっちり…etc…。およそ人間が集まると自然発生するような問題がざくざくでてきます。

前述のミュージカルを思い返したとき、確かにこの面倒くさくて果てしなくどうでもいいような人間模様が軽妙に描かれていたなと感心させられるのです。その点は漫画〈のだめカンタービレ〉も同様で、オーケストラの日常って正にドタバタコメディみたいなかんじ。フィクションだけれど、どこかのオケで起こっていても不思議のない話。

そんな、人格者とは程遠い方々ですが、音楽のことを語りだしたら一様に熱い。すごく暑苦しい。比類なき音楽への情熱と愛すべき人間性が、個々の味わい深い音色に繋がっているのですね。

どのオーケストラにも社風というか色のようなものがあると言いますが、個々の微妙な混じりあいがその色を生み出しているのだと考えると興味深いです。

Orchesterbüro = オーケストラ・オフィス(オルケスタ― ビュロー)

楽団員たちのスケジュール管理や事務をされています。

各作品の指揮者や労務管理部(KBB)と連携して練習や本番にいつ・どの楽器が・どれだけの勤務数であたらなければならないかのスケジュールを明記したシフト表・編成表を作成し、楽団員に通達します。

オーケストラの勤務形態

劇場での勤務時間は、劇場側が定めています。事務は固定ですし、芸術家は各々の持ち時間内でフレキシブルに働くという体系を採っています。

たとえば筆者の契約では1日あたりの勤務時間は(平均)最大7時間。朝と夜の3時間半ずつに分け、そのブロック内でダンサー全員分のリハーサルや本番をやりくりするイメージになります。

ですが特筆すべきはオーケストラが他と違って、楽団員がどのように勤務にあたるかを各自で判断していることでしょう。

オーケストラは練習や本番に関わらず、1回の出勤につき1『Dienst=勤務(ディーンスト)』と数えています。オーケストラオフィスでシフト表と編成表を出すと先ほど申しましたが、その表を基に、楽器ごとに最低1人が勤務数の計算係を担っているのです。

Diensteinteiler(ディーンスト アインタイラー)』と呼ばれるその計算係が、同楽器の奏者と相談の上、決められたDienst数に収まるよう要領よく割り振りしています。

オーケストラの方々は毎日・毎リハーサル・毎舞台、職場に出勤しているとは限らないということなのですね。これを知ったときの筆者の驚きといったら…! 万一に自分の稽古がなくとも毎朝のレッスンには強制参加であるバレエダンサーからすれば、理解がし辛い感覚です。笑

しかし考えてみれば当然なんですよね。作品が違えばオケの編成が違うのですから、毎回総動員ということはありえません。

ドイツの劇場ではひとつの演目につき10回以上の公演数があると以前の記事で申しましたが、公演日が違えば奏者違う場合もありますので、「今日の素敵な音はきっとあの奏者だな…」とか「このコンマスだと音がまとまってるな…」とダンサー同士で(しかも舞台上で)推測しながら踊るのがひとつの楽しみでもあります。

オーケストラが各自で仕事の日程(シフト)を調節できるメリットに、劇場外での個人的な音楽活動も可能になることが挙げられます。スケジュールはかなり早くから分かっているようですので、計画も立てやすいだろうと推測されます。

もちろん忙しい時期には却下されてしまうでしょうけれど、それでもある程度の融通がきくのだったら有難いでしょうね。これにより楽団員は自分の職場や仕事内容が全く楽しくなかったとしても、外にお楽しみを設けてモチベーションを保つこともできるのですから!笑

Orchesterwart = ステージマネージャー(オルケスタ― ヴァート)

調べてみると、日本のオーケストラにもこちらに相当するステージマネージャー(略してステマネなど)という方々がいらっしゃるのですね。

この職業の仕事内容に、ステージ上またはオーケストラピット内における大型・特殊楽器、楽団員の椅子や譜面台、楽譜のセッティング&片付けがあります。ですので裏方ではあるものの、幕間の楽器や椅子の配置転換などで客席からスタッフを目にしたこともあるのではないでしょうか。

椅子なんて必要な数並べるだけでは? とお感じになりましたか?笑 実はここにもプロの業が潜んでいます!

楽器によって、弾きやすい椅子の種類は違ってきます。コントラバス奏者を低い椅子に座らせたら…可哀想すぎますよね。

そして椅子同士の間隔も、弾く腕を自由に動かせる領域や、楽器がどこにもぶつからない距離感が重要です。トロンボーンに後頭部をいちいち小突かれたら、演奏するどころの話じゃないですし。

譜面台へライトの取り付けも必要です。劇場ではオーケストラピットの照明は落としますから、専用のライトがなければ舞台上よりひどい悲劇が起きてしまいます。楽団員は本番前に必ずといっていいほど、ライトの点灯確認をしているそうですよ。

日本でもそうですが、オケの練習場と劇場(またはコンサート会場)が同じ場所とは限りません。デリケートで高価である楽器の運搬をするのも仕事のうちです。車を運転する手に力が入りそうですね。

作品の編成を見てどの楽器が使われるのかしっかりと把握し、運搬の効率がよくなるよう配慮もしなければならないそうです。楽器ケースも大きなものでは人も入れるような大きさですので(2020年1月に、そんなニュースが話題にもなりましたね…)、編成によってはかなりの重労働となるでしょう。

ちなみに日本のステマネは本番の進行も執り行うようですが、ドイツの劇場内におけるコンサートの進行責任者は、舞台監督となっています。楽団員や指揮者、ステマネの出入りや、扉の開閉、照明の指示などを舞台監督が行います。

そしてここからが大切なところ!

新型コロナウイルス(Covid-19)の影響により、2020年3月からドイツで(4月には日本全国に)緊急事態宣言も出され、人の集まるイベント関連は全て中止せざるをえなくなっていました。オーケストラも同様に休演や延期を余儀なくされていましたが、7月末の現時点では感染予防対策を施した上での上演が認められています。

奏者間同士の距離や、アクリル板の導入検討、機材などの消毒、搬入担当者の特定など専門家の定めるガイドラインに則ってステージマネージャーは都度できる限りのことをしてくださっています。

これからも少しずつ接触制限措置が弱まり、コンサートが普段通り聴けるようになっていくとしても、此度のステージマネージャーの努力への感謝は忘れたくないものです。

まとめ

いかがでしたか? オーケストラをまだ外側からしか知らなかった方には面白く、内側にいる楽団員には深く頷ける記事になっていましたら幸いです。

ダンサーという、近くではあるものの、一歩外にいる筆者の立場だからこそ抱腹絶倒なオーケストラ。n度目になりますが、独断と偏見です。しかし、人間としても同僚としても友人としても飲み仲間としても魅力的で大好きな方たちのことを書いているつもりです。笑

コメント

タイトルとURLをコピーしました