ドイツの劇場にはどんな職業の人が働いているの? ~バレエ・ダンサー編~

バレエ

さて、今回の記事はいよいよ筆者の所属するバレエ部門です! 今まで劇場の中の事務オペラ部門オーケストラに運営陣(後編)と同僚のご紹介をしていますので、そちらもあわせて読んでみて下さいね!

さすが本業とあって説明が長くなってしまい、この記事ではダンサーの仕事内容のみを取り上げました。またバレエマスター(稽古指導者)や伴奏ピアニストについて触れていきますので、楽しみにお待ちください!

ドイツの劇場専属バレエダンサーは、普段からどういうふうに働いているんだろう? まさか本当に1日中踊ってるの?

その辺りが気になる方もいらっしゃるかと思いますので、この記事で疑問が晴れれば幸いです。

例によって例のごとくカッコ内にはカタカナでドイツ語での読み方を表記しておりますので、声に出してドイツっぽさを楽しんでみてくださいね。

ではでは早速、参りましょう!

Tanztheater / Ballett = バレエ(タンツ テアーター / バレット)

ドイツの歌劇場では、舞踊に関する部署を『Tanz=ダンス(タンツ)』または『Ballett=バレエ(バレット)』と呼びます。

このダンスとバレエの区別の定義は劇場によりけりですが、そもそも意図して区別しているのかどうかは謎です。バレエと呼ばれてはいても、コンテンポラリーダンスが演目にあるカンパニーもありますので、就職活動で下調べの際は気に留めておいた方がよいかもしれません。

これからお伝えしていく仕事内容で、特に重要な事項があります。それは、勤める劇場次第では「ダンスの部署なのに踊る以外の仕事もしなければならない」ということ。

おっと…いきなり雲行きが怪しくなってまいりましたね。どういうことでしょうか。笑

ひとつずつ、追ってご説明いたします!

Tänzer = ダンサー(テンツァー)

踊りを生業とするダンサー。そのドイツ語は、見出しの通り「テンツァー」です。

バレエダンサーは『Balletttänzer(バレット テンツァー)』、女性を『Balletttänzerin(バレット テンツェリン)』と呼び、ちょうどイタリア語では皆さんご存知のバレリーノ・バレリーナという言葉にあたります。

結論から言いますと劇場勤めのダンサーは、本当に1日中踊っております。そして本番以外の日も、常に稽古しています。本番日ならいざ知らず、土曜の午後も勤務するなんてバレエくらいなものですよ。(世はなんてったってウィークエンドですからね!!)(でもバレエしかいないと劇場は静まり返っていて、ほんとにさみしいんですから!笑)

合間に大小の休憩などもはさみ、諸々合わせると毎日およそ9時間ほどは劇場にいる計算になります。ではその内訳を見ていきましょう!

劇場での勤務

毎朝9時や、多くの劇場では10時からトレーニングが始まります。

ダンサーといえども、朝起きていきなり飛んだり跳ねたりすれば身体への負担になります。何がとは言いませんが、折れたりちぎれたりします。ですからトレーニングも小さな動きで筋肉を温めてゆき、徐々に動きを大きくするのです。ウォームアップと自己研鑽。トレーニングはその両方を兼ねて行われます。

トレーニング後に新作やレパートリー(初演を終えた現行の作品)の稽古へと移ります。

稽古内容はバレエマスター(稽古指導者)や振付家などが決めます。そして労務管理部(KBB)という部署が翌日の劇場全体のプランを出すため、お昼までにはバレエ秘書などを介して通達しなければなりません。

一週まるごとの稽古計画表を出してくれる親切なバレエ団もあれば、お昼になっても翌日のスケジュールが分からず、やきもきするバレエ団も。(他に習い事があったり、小さなお子さんがいると仮定、想像してみてください…)

1日の実働時間は、平均7時間。それを二等分した3時間半に小休憩を含めた、4時間程度のブロックが午前と午後に分立しています。

午後のブロックは本来ならばお昼休憩を4時間とったのちに再開と定められています。(参照:NVBühne Tarifrecht §86(1)/Stand Jan.2017)

しかし、中にはお昼休憩を1時間だけにしているカンパニーも。どちらを採用しているかは劇場によってまちまちで、舞台がない日であれば下記のどちらかになると思います。

  • 1時間の短いお昼休憩のあとに18時や19時くらいまで練習をする
  • 4時間の長いお昼休憩のあと18時から再開→21時や22時くらいまで練習する

前者は夜にまとまったプライベートタイムが確保できますが、郵便局など公共機関と同じ時間帯に働くぶん私事の予定はなかなか組みづらいです。個人的には1時間では心身ともに休まった気がせず、リハーサルの最後まで集中力・体力が持続しない印象。

後者ではゆったりとしたランチやお昼寝、少しでも日光を浴びる時間があります(日照時間の少ない地域では重要)。しかし帰宅時間は遅く、隣人が極端に敏感な方の場合など、お料理をしているだけで「うるさい」と苦情を入れられるそうです。隣人はどの国でも、ある程度ギャンブルですよね…。

どちらにも長所と短所は挙げられますが、続けていくうちに体は慣れていくでしょう。そしていずれにせよ、ふと気づけば劇場の方々としか接点がなくなる可能性です。

なお本番日であれば、ヘアメイクの時間から逆算して5時間のお昼休憩がとられます。上演開始時刻からの逆算ではありませんので、注意が必要ですね。

午前の仕事上がり時間がひとりひとり違うので、みんなチラチラ時計を気にしながら稽古しています。笑

身体のケアに周到なダンサーは自発的に、稽古前後に30分以上もかけて入念なウォームアップや筋トレ、ストレッチを行っています。

声楽家や演奏者もウォームアップが長く必要な方・そうでない方がいらっしゃるかと存じます。それと同様にダンサーの体も一人ずつ違うため「こうでなくてはならない」という決まりはありません。

ヨガやピラティスをウォームアップに取り入れている方や、トレーニング前にジムに行く方もいるのです。皆さん、自分に合うものを模索したり組み合わせたりします。

逆に、「自分は働く時間以外は絶対に働かない」と始業時間ぴったりにスタジオに現れる猛者もいます。怠慢かと思いきや稽古中は真剣に取り組んでいるので、本当に各人各様といった風情です。

以上をまとめますと、「毎日9時間は劇場にいる」内訳は

午前4時間

  • レッスン
  • 小休憩20分ほど
  • リハーサル

午後4時間

  • リハーサル
  • 小休憩20分ほど
  • リハーサル

上記の8時間に、就業前後の着替えやシャワー、自主的なウォームアップにストレッチなどのため最低15分ずつ付け加えたとして+1時間

*お昼休憩は4時間(もしくは劇場によっては1時間のみ)

となります。練習前後に付け加えるのが30分であれば、10時間に達してしまいますね。

筆者は、ダンサーって地味に着替えに時間を盗られている気がします。おねまき・よそ行き・レッスン着・衣装の反復横跳びに、1日のうちどれほどの時間を費やしているんでしょう。笑

バレエが稽古ばかりしている理由

これまでの記事でもお伝えしておりますが、ドイツの歌劇場ではひとつの演目につき公演は10回以上、最短でも数か月に渡って上演されるのが一般的です。

でもそうなると、本番と本番のあいだが数週間開いてしまうこともしばしば。ブランクが長ければ長いほど、「その作品のための」技術やコンディションが崩れるのは必至です。

ましてや複数の作品を同時進行で上演しているとなると、手の形ひとつとっても「てのひらは上向きだったか下向きかはたまた中間か」なんて細か~いディティールの記憶は、薄れてしまうと思いませんか?

バレエダンサーは動きを脳だけでなく、身体に覚えこませます。難しいテクニックも、振付も、他のダンサーとタイミングを合わせるのも然り。反復練習を重ね、身体がほぼ自動的に動いてくれる状態までもっていってから舞台に臨んでいるのです。

ブランクの期間にその感覚が失われてしまうと復活まで、つまり「勘を取り戻すまで」再び長い稽古を要します。すごろくに例えると、あがったはずなのにスタート地点近くまで一気に戻されてしまうようなものなのです。面倒なの、伝わりました?笑

それでなくともバレエはスタミナ管理が一苦労。呼吸器や筋肉の衰える速度はあまりに速く、稽古の積み重ねで楽に踊れていたものが、たった一日二日開いただけで息が続かなくなってしまう作品もあります。

もちろん、クオリティの向上を図るためでもあります。バレエの初演は間近になってやっと振付が移し終わったりと「やっとの思いで辿り着く」場合がほとんどですので、初演と千秋楽ではクオリティにかなりの差があるのが見て取れますよ。特に群舞はシンクロ度が増しているはずですので、ぜひ見比べてみて頂きたいポイントです!

以上をまとめますと、ダンサーが稽古ばかりしている理由は

  • 体の感覚が鈍るのが速い
  • スタミナが衰えるのが速い
  • クオリティの向上を図っている

となります。劇場内の他の分野では大抵、初演を迎えたあとは次の作品にかかりきりになりますので、その点はバレエとの大きな違いだと思います。

新作の準備(振付)と現行作品の稽古とが同時並行ですと、時間がいくらあっても足りません。合唱の同僚には「なんでバレエはいつも練習ばっかりなの?」と不思議顔で尋ねられるのですが! こういうことですよ!!笑

劇場付きバレエの仕事内容

バレエが時間に迫られる大きな理由がもうひとつ。ここからいよいよ、記事の核心に触れていきますね…。

ちなみに以前、「劇団・歌劇団・バレエ団の活動内容が混同しがち」という方に向けて記事を作成いたしました。

こちらで劇団・歌劇団・バレエ団の違いと、ドイツでは劇場内の『部署』として演劇・歌劇・バレエのどれも存在するケースがあることを、大まかにではありますがご説明しています。

上記をご理解いただけた前提でお話ししますので、詳しくは記事を読んでみてくださいね。

…さてと。ここまで散々『違い』を強調しておいて何ですが! 皆さんを裏切ります!!

劇場におけるバレエ部署の重要な仕事…。それはオペラ部署に出張すること

つまり日本でいう「歌劇団」の仕事も、バレエで賄っているのです!!!

劇場のバレエダンサーは歌うのです。驚かれましたか? 私も当時は大変驚きました。笑

もちろん全ての劇場で、というわけではありません。今から前提を説明させて頂きます。

オペレッテとミュージカル

専門の一座と違い、劇場のバレエは時節柄のガラ公演や舞踏会をはじめとする様々なプログラムに駆り出されます。その最たるものが『Musical=ミュージカル』そして、『Operette=オペレッタ(オペレッテ)』。

ミュージカルは多くの方がご存知のように、喋り歌い踊ることで物語が展開してゆきます。しかしオペレッタというと、歌劇ファンでなければその言葉に目を留める機会もあまりないかもしれません。

オペレッタは19世紀ごろからパリで見られ、その後ウィーン、ベルリンでも人気に火がついてゆきました。言葉自体には『小さなオペラ』という意味があり、ざっくり、本当にざっくり言ってしまえば『ミュージカルのクラシック音楽版』です。(色んなところから怒られそう。笑)

オペラよりもセリフの割合が多く、ダンスも随所に取り入れられ、物語の筋も喜劇的かつほとんどがハッピーエンドで終わることから今日でも大衆に親しまれています。ドイツの劇場ではドレスデンやライプツィヒを始め、メインとなる劇場の他にオペレッタを主力演目とする劇場が存在するほど盛んに上演されているのです。

そう、オペレッタは盛んに上演されている。これが重要なんです。

つまり逆を言えば、オペレッタ劇場が別個に存在しない街の劇場において、バレエは高確率でオペレッタやミュージカルに参加しているということ。

今まで踊りしかやってこなかったのに突然歌わされるなんて…しかもご丁寧にコレペティトーアとの歌唱レッスン付き!? いやもう、本当に筆者はバレエダンサーと名乗っていいものなのか怪しいところですよね。

あまり話を盛りすぎるのも良くないので補足しておくと、そこでのダンサーの主な仕事はやはりバックダンサーです。オペレッタには必須とも言えるワルツを踊ったり、ミュージカルを盛り上げるダンスナンバーの力添えをしている、という意味ですね。でもドイツ人など言語が流暢なダンサーは重要な役を任せられるケースも見られますので、あながち誇張ではないですよ。笑

作品の端から端まで専門のゲストを雇おうと思ったら、予算も時間もかなり割く必要があります。ですから、劇場ではささっと踊れてちょびっと歌ってくれるバレエ部署はそういう意味でも重宝されているのです。

劇場にもよるが、ドイツのバレエダンサーは勤務の一環としてオペレッタやミュージカルに出演し、場を盛り上げる役割を果たす。

劇場によって仕事内容は全く異なる

無論、全てのカンパニーが一様にこうした働き方、というわけではありませんよ。午前の部で仕事上がりでむしろ暇すぎるところもあれば、1日中即興のダンスばかりしているところも。当記事ではバレエだけしているところもあるけれど、ミュージカルやオペレッタをしているところも数多くありますよ、という紹介でした。

こちらの過去記事も併せて参照していただけたら分かる通り、ドイツはバレエ団も多様です。就職活動を検討中の方は自分のスタイルや性格、そしてやりたい事を見極めてカンパニーに応募してくださいね。

かく言う筆者は「採用してもらえたらどこでもいいや~なんでもする~」と呑気にオーディションを受けていたある日、当時の自分とは何から何までスタイルの違いすぎるカンパニーに赴き、非常に焦った覚えがあります。

他の応募者が靴下・Tシャツとラフな恰好で受けているのに対し、筆者はレオタード・ピンクタイツにリボン付きバレエシューズという場違いすぎる出で立ちです。あんさん間抜けも大概にしなはれ。

幸いというべきか同級生と連れ立っていたため肩身の狭いのは独りではなく、慌ててリボンだけでも切って皆で臨んだのは後から笑い話になりました。そして無事、オーディションには仲良く全員落ちました。笑

どんなダンサーがドイツに向いていそう?(筆者の個人的な意見)

ドイツには沢山の劇場がありますので、どんなタイプダンサーにもどこかしらには合う職場が見つかるのではないか、というのが筆者の個人的な意見になります。近隣諸国にも多くのカンパニーがありますし、拠点としてもぜひ候補に加えて頂きたいと思います。

オペレッタやミュージカルへの強制参加は、バレエに専念したい方にとってはデメリットでしかないように捉えられてしまいそうなところです。いずこかのバレエ団でトップを目指す気概にあふれる方には、将来の選択肢から外されてしまうのも無理はないと存じます。

けれど筆者自身はプロとして契約を結んで以来14年、現在の自分の演技力・表現力はオペレッタとミュージカルで培われたと信じて疑っていません。なぜならプロの俳優や歌手、そして合唱団の全身を使った演技を、練習から本番に至るまで間近で『見学できた』のですから。わくわくする体験を通じて学べるなんて、贅沢なことですよね。笑

ですので筆者は、演技力を磨きたい・自分の表現の幅を広げたいとお考えのダンサーの皆さまには、ドイツの劇場に沢山の可能性があることをお伝えしたいと思います。また、この記事を読んで「歌って踊ってしてみるのもちょっと楽しそうかも…?」と感じられた方にも!

筆者の知人の中には日本の劇団からバレエの比率を増やすためドイツにいらっしゃった方や、日本人ではないもののバレエダンサーを引退するタイミングでミュージカル俳優に転向した方も! 言葉の壁が厚いのは言うまでもありませんが、挑戦しがいはありますよね。

まとめ

いかがでしたか? ドイツのダンサーが勤務の一環としてオペレッテやミュージカルで踊りつつ、たまに歌ってもいるのは面白いかと考え、こうして解説してみました。長い記事になってしまいましたが、筆者の失敗談なども含め楽しんでいただけたのなら大変嬉しいです。笑

「ドイツの劇場付きバレエ団では普段、どんな仕事をしているのだろう?」

そんな疑問が、なんとな~く解消されましたことを願っております!

コメント

タイトルとURLをコピーしました