ドイツの劇場にはどんな職業の人が働いているの? ~バレエ・ピアニスト編~

バレエ

今回の記事では、ドイツの劇場専属バレエ団に勤める『バレエピアニスト』をご紹介します。バレエダンサーの記事へはこちらから、バレエマスターの記事へはこちらからどうぞ!

今までに事務オペラ部門オーケストラに運営陣(後編)と同僚のご紹介をしていますので、そちらもあわせて読んでみて下さいね。

それでは早速参りましょう!

Ballettrepetitor = バレエピアニスト(バレット レペティトーア)

こちらはオペラ部門で紹介した『コレペティトーア』のバレエ版と言ったところ。ドイツ語で、『Ballettrepetitor(バレット レペティトーア)』と呼ばれます。(ちなみに筆者は略して「バレペティ」と呼んでおります。ええ、筆者だけ。笑

主な仕事内容は次の通りですが、5つめ以降は劇場によってかなり違ってきます。

  1. トレーニングの伴奏
  2. 稽古の伴奏や音出し
  3. ピアノ総稽古(KHP)の伴奏
  4. 指揮者との連携
  5. 音楽的な指導
  6. 本番の演奏
  7. ツアーなどで音楽のキュー出し

ではひとつずつご説明していきたいと思います!

トレーニングの伴奏

ドイツの劇場専属バレエ団の朝はトレーニングから始まり、ダンサーの身体が温まったところで作品の稽古へと移ります。(こちらはダンサーバレエマスターの仕事内容をご説明した際にもふれていますので、詳しくはそちらをご参照くださいね!)

バレエピアニストの主な仕事はまず、トレーニングと稽古時に、ダンサーの踊りをピアノで伴奏すること

トレーニングの曲は、即興で弾いていらっしゃるピアニストが多いと思います。バレエマスターがお手本として見せる振りの長さ(何小節か)は、パターンはあれど全て同じではありませんので、用意したものを弾くという行為自体が難しいのです。中には曲が終わる頃に「やっぱり8カウント追加で!」と急なおかわりを要求するバレエマスターもいますし、ピアニストはそれに柔軟に対応しなくてはなりません。

ダンサーがお手本を覚える短い間に、そのテンポをいち早く把握し、一連の動作(アンシェヌマン)のもつキャラクターを音楽に反映させます。(むしろこれはバレエマスター側の「ほしい音楽を的確に伝える技量」にかかっている、というのが筆者の持論です)

曲は純粋な即興のときもあれば、バレエをはじめとした有名な舞台音楽・クラシック・映画音楽などを振りの長さにちょうど収まるようアレンジする方も。筆者の職場のピアニストも即興や、弾き慣れたレパートリーだったり、「今日はこれをどこかで弾きたいな」という曲の楽譜をいそいそ持ちこまれたりしています。

バレエのトレーニングの伴奏は、とにかくテンポが特殊。たとえどんなに上手なピアニストでも、初回から踊りの速さが手に取るように分かるなんてことは、かなり考えにくいです。まず不可能と筆者は断言します。笑

特にこれまで歌手の伴奏に慣れていたコレペティトーアがバレエピアニストに転向すると、混乱は必至。といいますのもダンサーは根本的に、音楽にはまるよう予測を立てて自身の身体を動かしております。「ダンサーが音に合わせる」ものですので、「歌に合わせる」コレペティトーアの弾き方とは真反対。ダンサーが音を待ち、ピアニストもダンサーの動きを待つと、テンポが延々スローダウンしてしまうという事案が発生してしまうのです!笑

ですのでバレエピアニストがトレーニングを弾く際は、演奏会のような情緒よりも、

  • テンポを(基本)一定に保つ
  • テンポを変える際には「次から変わるよ」と音でダンサーに伝える
  • 動きに合った音楽をチョイスする

などの独特な技術が求められるのです。(求められるといいますか、ダンサー側からすれば、あると嬉しいです…)

動きに合った音楽のチョイスって?

音楽と踊りはリンクしているものですから、合う音楽で「踊りの手助け」ができたり、逆に合わない音楽によって「踊りが悪い方に引っ張られてしまう」ことがあります。

極端ですが分かりやすい例として、ゆっくり脚を上げたり身体を伸ばして使うときにはゆったりした曲が好ましく、速いせかせかした曲は合いません。

ダンス経験のないピアニストには、動きに合った音楽を感覚で選び取るのは、最初は至難の業でしょう。けれど慣れていくうちにステップに対する理解が深まり「あっ、足を上げて回るときはいつもより時間がかかるんだな」などといった発見がぽつぽつと出てくると思います。

細かいところにこだわるとすれば、例えば跳躍時には強いアクセントが踏み込みや、跳躍の一番高い瞬間にくるとダンサーは跳びやすいです。逆に着地のときにアクセントがきてしまうと、見た目も体感も、とても重く感じられてしまうのです。

「弾かない」ということをうまく使うのも重要。特に跳躍や回転時には、下地のテンポを刻みつつメロディをたまに抜くのはかなり効果的です。ワルツのイメージ的には「1、、2、、3、、4、、いちにっさん、にーにっさん、さーーーんしーにっさん」と弾いて頂けると、この「さーーーん」でめっちゃ跳べたり回れたりするわけですね。まあ、踊ってる側からのこういう小ネタを言い出すときりがないんですけれども。笑

でも改めてそういう視点からバレエを「聴いて観る」と、古典の振付など本当に音楽的に作られていることがわかり、きっと感心してしまいますよ!

稽古の伴奏や音出し

また、稽古もバレエピアニストの伴奏で行われます。ピアノ専用の楽譜があるとはいえ、ピアノだけでオーケストラの音を再現しなくてはならないため、細心の注意を払って事前練習されています。

バレエピアニストの伴奏で振付家が新作の振り写しをすると、必要に応じてテンポを調節できる点はとてもよいと思います。ダンサーも最初はゆっくりのテンポで試し、動きに慣れてきたら速くするという練習方法をとることができます。

しかし稀に、「オーケストラなら思い通りに弾いてくれるから」とめちゃくちゃなテンポ指定をし、音楽家をまるでロボットか何かのように勘違いなさっている振付家もいらっしゃるので困ったものです。

バレエピアニストは音楽的に不可能なテンポならば指摘した方が将来的ないざこざを回避できますし、指揮者も稽古を訪ねるなどしてよく目を光らせておいた方が身のためでしょう。笑

なお、稽古の伴奏が難しい場合は、音源を用いて行われます。本番に音源を使う場合ももちろんですが、同様です。プレーヤーの脇に控え、音出しをするのも仕事のうちなのです。

バレエマスターが稽古をつける際の『癖』や『パターン』をよく分かっている方ですと、「じゃあもう一度〇〇から」と繰り返すときの地点をおおまかにでも先読みされているので、稽古が非常にスムーズに進みます。細かいけれど、これぞプロのなせる業。笑

ピアノ総稽古(KHP)の伴奏

劇場では初演の約一週間前から、ヘアメイク・衣装をつけて本番通りの手順や照明で行われる段階に入ってゆきます。舞台リハーサルの仕上げです。

作品の全体をオーケストラと合わせるひとつ前に行われますのがこの、ピアノ総稽古です。

ご存知の方も多いでしょうが、ドイツ語ではピアノを『Klavier(クラヴィーア)』といいます。ですのでピアノ総稽古のことを『Klavier Hauptprobe(クラヴィーア ハウプトプローベ)』といい、略して『KHP(カーハーペー)』とも呼ばれます。

バレエでは、このKHPの伴奏を担当するのはバレエピアニストです。指揮者の指揮のもと、長丁場にもなるこの稽古を弾きます。

指揮者との連携

バレエと指揮者の橋渡し…というか、通訳係みたいな仕事もしています。笑

先ほどちらっと申しました通り、稽古ではバレエマスターがバレエピアニストに必要な箇所を伝えて音を出して頂きます。しかしその地点は大概、振付の中身で表現されます。たとえば「じゃあ彼女が斜めに走るところから」、「ふたりが別々の動きをしだすところから」といった具合に。

それゆえバレエピアニストの楽譜は、弾く時の注意点のみならず、振付の書き込みが沢山されています。音出しを分かりやすくするため、振付の要所要所をメモしてあるのです。本でいうドッグイアー代わりですね。

これが音楽ですと、指揮者は楽譜を指して「〇小節から」とシンプルに言うだけで事足ります。

ですのでバレエと指揮者が舞台リハーサルで合わさると、「あれ?音出しの言語が違うぞ…?」となってしまうのですね。そんな時の同時通訳者が、バレエピアニストなのでございます!笑

もちろん両者の音楽に関する補佐もして、問題解決に努めています。

音楽的な指導

こちらは劇場によってかなり違います。ピアニストが忍者のように気配を消しているところもあれば、カウントの手伝いや音楽的な間違いを積極的に指摘して下さるところも。

指導者のスタンスによっても、だいぶ変わってくるのかもしれません。

ちなみに筆者が今まで踊った中でカウントが最も難しかったのは、John Adams作曲の『Short Ride in a Fast Machine』と『Guide to Strange Places』の強烈なコンボです。

初演ギリギリまで私たちダンサーはバレエピアニストにべったりくっついて、カウントの確認をしていました。正直あれはもう…踊り(数え)たくないです…。

本番の演奏

こちらも劇場によってどこまで弾くのか変わってきます。

本番の作品をバレエピアニストに任せるところもあれば、振付家やバレエピアニスト自身の意向で本番はゲストを呼ぶと決めているところも。

また、バレエ『くるみ割り人形』のチェレスタなど、「ちょっと弾くぐらいなら了承してもらう」ケースも見られます。

ツアーで音源のキュー出し

普段の本番でバレエが音源を使う際、ドイツ歌劇場では音響さんへのキュー出しは『舞台監督』が一任するものです。

ですが、ツアーなどで本来の舞台監督が不在の(現地の舞台監督が担当する)場合は、バレエピアニストがキュー出しを担当することも。これもやはり、ダンサーの振付と音楽を両方よく理解しているのがバレエピアニストだからに他なりません。

いわく「普段のどんな業務より疲れた」そうで、本業でないことをいきなり任されるとやはり、神経を使うものですね。

まとめ

いかがでしたか? バレエピアニストとはいうものの、ピアノを弾く以外のお仕事も案外たくさんあって驚かれたのではないでしょうか?

筆者個人的には、バレエピアニストさんのピアノには本当に助けられてばかりです。

プロのダンサーはどれだけ疲れがあったとしても、トレーニング開始時刻にはスタジオにいるのが仕事。「やりたくないなーモチベーション上がらないなー」なんて考えていても、素敵なピアノの音が鳴りだしたら途端に集中できてしまうんです筆者の『やる気スイッチ』みたいなものなのかもしれません!笑

12月くらいになるとクリスマスソングをレッスンに取り入れたり、誕生日のダンサーがいるとお誕生日ソングを弾いてくださって皆で歌ったり…。バレエスタジオを音楽の力で明るくしてくださるのが、バレエピアニストさんなのでした。

あまり語られない劇場内でのこのお仕事を、たっぷりご紹介できて大満足です! プロのダンサーがこんなにもバレエピアニストさんに依存しているということ、少しでもご理解いただけたのなら幸いです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました