【劇場】初演を迎えるまでのプロセス【ドイツ語の専門用語付き!】

バレエ&劇場
Image by Michael Schwarzenberger from Pixabay

こんにちは! ドイツの劇場でバレエダンサーとして働く、筆者の川端(@ChihoKawabata)です。

新作『カルメン』の初演が、3月末に無事終わりましたー!

仮、というのはお客さんを入れない状態で「初演までのスケジュールをこなした」ということで。劇場の同僚数人が観に来てくれてました。コロナの罹患率が下がり、お客さんにも観ていただける日が早くきますように!

さて今回は、

「初演までのスケジュールってなんぞや?」

という方のために、劇場が新作をお披露目するまでのプロセスかなり詳細までご紹介していきますね! 大長編になってしまいましたが、ぜひぜひお付き合いくださいっ!

もちろん、せっかくなのでドイツ語も交えつつ♪ 音楽・バレエ留学生さんたちのご参考にもなれば幸いです。

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初演を迎えるまでのプロセス

初演から約6か月前

Bauprobe

舞台の実現に向けた現場での第一歩として、まず、初演より約6か月前までには『Bauprobe(バウ プローベ)』が行われます。

バウは建築、プローベはリハーサルを意味しています。つまり舞台セットを担当するデザイナーがイメージした小さな模型を、実際の大きな舞台に移してみるリハーサルのこと。

舞台セットが全て出来上がってから「あれっ、このサイズじゃ人が通れないよ!?」なんてことがあったら困りますからね! しかも作り直す予算ももうない!笑

ですのでまずは企画案の通りに建物や樹木、段差、家具などを模した簡易のセットを置くなどして舞台の全体像をシミュレーションします。舞台セットの転換は問題ないか、客席の様々な位置から舞台がどう見えるか…といったことを、先に確認しておく必要があるのです。

立ち合いには当のデザイナーはもちろん、演出家、振付家といった演出の主軸である面々が揃います。オーケストラの位置や音響への影響を確認するため、指揮者の姿もあります。しかし出演者は、このリハーサルには参加しません

初演から半年も前だなんて、ずいぶん早いと感じるでしょうか。しかし作品のアウトラインを先に決めてしまわないと、大風呂敷を広げるだけ広げて演出のアイデアが全部入りきらない! なんてことになりかねません。キャンバスに何を描くかは自由ですが、大きさは後から変えられないのと同様に。

作品の舞台を簡易なセットでシミュレーションするリハーサル=Bauprobe(バウ プローベ)

舞台セット=Bühnenbild(ビューネン ビルド)

舞台セットを担当するデザイナー=Bühnenbildner(ビューネン ビルドナー)

初演から約2か月前

Einführung

バウプローベ後も作品の打ち合わせや舞台セット作りは進行していますが、出演者が本格的に始動するのは初演から約2か月前。(ドイツの一般的な劇場では、だいたいこのタイミングです)

まずは『Einführung(アインフュールング)』というミーティングがあり、そこで出演者は演出サイドから作品の説明、作品を通して観客に何を伝えたいか、使う音楽・衣装や舞台セットについての説明を受けます。顔合わせのようなものですね。

そこから、演者の立ち振る舞いを取り決める「立ち稽古」や、振付を覚える「振り写し」といった練習に入っていきます。

舞台の寸法はもうバウプローベで決めましたので、スタジオの床には目印に、テープが貼られます。これは、使える空間や袖の位置などを明確にしておくため。

より意義のある練習にするための工夫は、他にもありますよ。

たとえば本番と似た衣装をつけて練習することも多いです。ヒールのある靴、スカート、ジャケットなど演技や身体動作へ特に影響を与えるもの・慣れが必要なものなどは衣装部門から支給されます。そういった観点から、バレエならチュチュやバレエシューズ、トウシューズも全て支給なのです。

練習用の小道具も、劇場の小道具係が用意してくださいます。家具みたいな大道具は倉庫から持ってこれますが、動く壁といった特殊なものは大道具係がちゃちゃっと作ってくださいます。

ちなみにオペラや演劇の場合、立ち稽古を円滑に進めるため、歌の練習(いわゆる音楽稽古)やセリフ覚えなどはこの時点で既にあらかた済ませています。

作品の概要を共有するミーティング=Einführung(アインフュールング)

立ち稽古Szenische Probe(スツェーニッシェ プローベ)

振り写しChoreographische Einstudierung(コレオグラーフィッシェ アインシュトゥディールング)

小道具Requisite(レクヴィズィーテ)

音楽稽古Musikalische Probe(ムジカ―リッシェ プローベ)

Anprobe

立ち稽古や振り写しに入ると、間もなく個別に『Anprobe(アンプローベ)』があります。

アンプローベは衣装のフィッティング・リハーサル。衣装係が大まかに作成した衣装を、詰めたり切ったり手直ししていく作業です。市販の服や小物をアレンジする場合も。

作品の衣装デザイナーが立ち会うのが普通ですが、コロナ禍ではビデオ通話で繋いだりしていました。

初演から約2~3週間前

Photo by cottonbro from Pexels

Bühnenprobe(略称:BP)

Bühnenprobe(ビューネン プローベ)』は舞台リハーサルの意。ちなみに先ほどからちょくちょく登場するビューネとは舞台のことです。

他作品のスケジュールとの兼ね合いもありますが、だいたい初演から2~3週間前にちらほら舞台リハが入ってきます。

演出家や振付家は客席の中に机を設置し、少し離れたところから舞台を俯瞰ふかん的に見ます。マイクなどを通して出演者に指示を与えることも。

Orchestersitzprobe(略称:OSP)

オーケストラが仕上がってくると、『Orchestersitzprobe(オルケスター ジッツ プローベ)』が行われます。一回で済むケースがほとんどです。

語源は「オーケストラ+座る+リハーサル」ですが、オーケストラはたいがい座ってるやんって思われますよね。笑

このリハーサルで座っているのは歌手のほう。「舞台で演技つきでリハーサルする前に、ちょっと音楽だけ合わせとこか~」という、要は歌とオケの初めての合わせです。歌はそれまでピアノで練習していますからね。

指揮者と歌い手の両方が、まずは音楽に集中することを目的に設けられたリハーサルということです。

ドイツではバレエダンサーもオペレッテやミュージカルを歌うときがありますので、その場合はもちろんこのリハーサルに参戦します! オケの方々に生温かく見守られて歌います。笑

初演の前週

Beleuchtungsprobe(略称:Bel.P)

Beleuchtungsprobe(ベロイヒトゥングス プローベ)』は、舞台照明を決めていくリハーサル

このリハーサルは主に照明デザイナー(舞台セットの担当と同一人物であるケースも多い)と劇場の照明係、技術部門の監督、そして演出家・振付家の間で行われます。出演者が同席することはありません。

しかし実際に人が立たないとライトの当たり方は把握しづらいので、演出助手が立ったり、立つだけの人を雇ったりします。

このリハーサルには意外なほど時間がかかります。舞台が空いている日に丸1日かけて行ったり、3時間ほどのリハーサルを数日に渡って行う感じですね。こちらも他作品のスケジュールとの兼ね合いです。

Bühnenorchesterprobe(略称:BO)

さて、『Bühnenorchesterprobe(ビューネン オルケスター プローベ)』では舞台リハに、オーケストラの音楽が加わります。

見ての通り言葉が長すぎるので、劇場ではBO(ベーオー)と略します。作品の長さや音楽的な難易度に左右されますが、だいたい3~6回行われます。1回は3時間ほどの長さ。1日に2回することもざらにあります。

このBOは音楽をメインとしたリハーサルですので、舞台の主導権は演出家や振付家ではなく、指揮者にあります

「テンポめちゃくちゃ遅い…踊れん…」と思ってはいても、伝えるのは後からなんです。出演者にも音楽を止める権限はありません。

Klavierhauptprobe(略称:KHP)

舞台装置、大道具の転換、照明、小道具、衣装、化粧などを初めて合わせるリハーサルが、この『Klavierhauptprobe(クラヴィーア ハウプト プローベ)』。

なにせ初めて全て合わせるのですから段取りはまだ悪く、うまくいかなければ都度ストップしてやり直します。そのため伴奏はオーケストラではなく、より機敏に対応できるピアノ(指揮者が振っています)。だから名前の最初に「クラヴィーア(ピアノ)」とついているんですね。

名称はこちらも長ったらしいのでKHP(カーハーペー)と略します。リハーサルは一度きりですが、なにせ時間がかかる前提なので、普段の業務時間をオーバーしてもいいことになっているのが特徴。『überlang(ユーバーラング)』と呼ばれるものです。

バレエでは録音音源のみを使用する作品もしばしばあります。ピアノを使いませんので、KHPではなく『Komplettprobe(コンプレット プローベ)』と呼んだりします。コンプレット=コンプリート。つまり「全て揃っているリハーサル」という意味になります。

客席からはヘアメイクアーティストや衣装係、そして各デザイナーも厳しくチェックしています。照明や動き、そして作品の印象に合わせて、ここからもまだ微調整! もちろん私たちも直してほしいところがあればどんどんお願いします。(特にダンサーは動きにくいだの、リフトしたらボタンがひっかかるだの小うるさい。笑)

初演の週

Hauptprobe(略称:HP)

本番が週末に迫り、練習もいよいよ大詰め。雰囲気もだいぶピリピリしてきます。

Hauptprobe(ハウプト プローベ)』からは、なるだけ『Durchlauf(ドゥルヒ ラウフ)』を目指します。つまり、問題がなければ止めたりすることはないということ。日本語で「通し稽古」、英語では「ランスルー」などと呼ばれます。

HP(ハーペー)と略され、たいてい二度行われます。筆者の劇場では1日目のHPで専属カメラマンが入り、宣材写真を撮っていきます。プログラムやインターネットに載る写真は、全てこの日のものなんですよ。案外タイトスケジュールなんです。笑

HPもKHPと同様に時間超過OKなüberlang(ユーバーラング)なので、終わってから衣装を脱いで反省会(演出家、振付家やアシスタントから注意点をもらう)ために集まることもしばしば。

Generalprobe(略称:GP)

場内アナウンスから何から、全てを本番通りに予行する最終リハーサルGeneralprobe(ゲネラルプローべ)』は、初演の前々日に行われます。日本でも『ゲネプロ』という略称は広く知られていますね。私たちはGP(ゲーペー)と呼びます。

他の部門の同僚や、現役を引退したOB、またスポンサーなどを客席に入れたりするケースも見られます。劇場ではGPでの拍手は「初演で不運を呼ぶ」と伝えられていますので、お辞儀の練習も淡々としたもの。

オペラ部門は初演前日を休息日にすることが多いです。バレエ部門は、前日にGPをもってくる劇場も珍しくありません。

Premiere

ついに新作をお披露目する夜がやってきました! 初演、『Premiere(プレミエーレ)』です!

「あと1週間、いや数日あれば…」と毎度のごとく思いますが、無情にもこの日はやってきます。そう、私たちは準備万端というより、ここ数日の舞台リハーサルでどっと増えた注意点や変更をちゃんと覚えているだろうかと不安な気持ちで臨んでいるんです。最後はほんとに詰め詰めで、頭が爆発しそうなほどですから…笑

初演のお辞儀では、演出家・振付家、彼らの助手に加え、作品の舞台セットや衣装を担当したデザイナーも演出チームとして登場します。演出が良ければ盛大な「ブラボー!」が、逆に悪ければ「ブー!」とブーイングが巻き起こります。緊張の一瞬ですね!

終わりに

幕が下りると、終演…ですが、出演者はここからまた全速力でおめかしいたします!

皆さんも初演にお越しの際はぜひ『Premierenfeier(プレミエーレン ファイアー)』、打ち上げまで足を運んでいただいて、一緒にシャンパンで乾杯いたしましょう♪

打ち上げ場所は、このように尋ねてみてくださいね。

どこで初演の打ち上げは行われますか?

「Wo findet die Premierenfeier statt?」

(ヴォー フィンデット ディ プレミエーレンファイアー シュタット?)

初演を迎えるまでに起こった面白ハプニングをお話しいたします! ちょっと顔がやつれてるのはご愛嬌ということで。笑

劇場でお待ちしておりま~す! それではまた♪

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